以前のチェリカの如く、イラスト貰ったのでSS書いてみようと思った。





 近年、ルーンミッドガッツと交流を開いた国は数多い。天津、コンロン、龍の城、そし
て、ここアユタヤである。
 国交が開いたばかりの時はルーンミッドガッツから観光客が押し寄せたこの国も、今は
冒険者が稀に立ち寄るばかり。観光客となるとそれよりも更に少なくなるだろう。
 とはいえ、アユタヤ自体がそう大きな国ではない。なので、あまり外国から押し寄せて
こられても、まともな対応が取れなくなってしまう。それを鑑みると、今くらいの状態が
最も良いのかもしれない。
 観光地としてのアユタヤの見所は、その自然にあるのも大きい。人混みの中では、自然
を愛でる余裕など無くなってしまうのだから。
 そんなアユタヤという国に、たった一つだけ異物が存在していた。特に名前などが伝え
られていないため、単に「古代遺跡」とだけ呼ばれている建造物がそれだ。
 その異彩のなせる技か、「古代遺跡」にまつわる噂は数多い。
 曰く、スミンタイガーと呼ばれる怪物が眠っている。
 曰く、その遺跡は奈落へと繋がっている。
 曰く、いたいけな少女の魂が彷徨っている。
 曰く、数百モノ宝物があり、その守護者が徘徊している。
 曰く、古代遺跡という神秘的な言葉に場違いなデブを見た。
 曰く、ぬこかわいいよぬこ。
 と、軽く列挙してみてもこれ程の数になる。不可解なものも混じっているが、気にしな
いで欲しい。
 それ故か一部の冒険者達の目にとまり、それを切欠としてアユタヤ古代遺跡は数多くの
冒険者で賑わうようになった。…のは既に過去の話。現在のアユタヤ古代遺跡は以前より
人を見かけるようになったものの、以前と同じように閑散としていた。
 何故なら、アユタヤ古代遺跡はルーンミッドガッツ王国より訪れた好奇心の強い冒険者
達の手によって、徹底的に調べ尽くされてしまったからだ。
 結果、『古代遺跡』という言葉に付随するはずのロマンという言葉は消え去り、後に残っ
たのは魔物の徘徊するダンジョンとしての側面だけ。
 そのため、現在のアユタヤ古代遺跡は魔物を退治して糧とする人間だけが集まるように
なってしまっていた。
 異国の地であるために当然ではあるが、アユタヤ古代遺跡を棲処とする魔物はルーンミッ
ドガッツでは見ない魔物ばかりだ。
 大刀を持つタムラン、小さい体とすばしこい動作のクラベン、葉を衣服として使用する
風変わりな猫、そしてアユタヤの伝承にのみその姿を現し、唯一ルーンミッドガッツの冒
険者たちにその姿を暴かれることのなかったスミンタイガー。
 今日もまた、彼ら古代遺跡の守部達と、ルーンミッドガッツの冒険者達は刃を重ねてい
る。

 アユタヤ古代遺跡の地下二階にて、一体のタムランと一人の女聖職者が対峙していた。
タムランの持つ大刀が光を弾き、女聖職者の持つモーニングスターが薄くアスペルシオの
輝きを放つ。
 女聖職者の周りには、何体か分のタムランの残骸が散らばっていた。すべて、このモー
ニングスターを手にした彼女に砕かれたのだ。
 彼女の名はラミリア。聖職者の中でも異端とされる、自ら武器を振るって魔物を駆逐す
る戦闘神官。通称"殴りプリ"だ。
 タムランと対峙する彼女の姿は痛々しいものだった。
 紫を基調とした法衣は彼女自身の血でどす黒く染まり、タムラン達の攻撃に曝されたせ
いでボロボロだ。頭から流れる血が彼女の顔に一本の線を描き、法衣の敗れた穴からはや
はり血に染まった肌を垣間見ることができる。だが何故だろう。得物を手に立ち上がって
いる彼女の瞳は爛々と輝き、満身創痍の外見と裏腹に、死相よりもむしろ、生命の頑健さ
を物語っていた。いや、もしかすると燃え尽きる前の最後の輝きなのだろうか。
「残るはあんた一体ね」
 ガシャン!と盛大な音が響く。ラミリアがモーニングスターを叩き込んで、足下に転がっ
  ていたタムランの死骸を更に砕いたのだ。
 その声は満身創痍な外見と裏腹に、芯があり力強い。
「キ、貴様、ヨクモ仲間ヲ!」
 タムランが叫ぶが、魔物の言葉などには耳を傾けず、得物を振り上げて突進するラミリ
ア。既に砕かれていたタムランの死骸が、もう一度耳障りな音を立てて踏み砕かれた。相
当に力が込められた踏み込み。
 しかし駆けた勢いのまま振り上げたモーニングスターは、金属質な音と共にタムランの
持つ大刀に防がれた。
「イヤ、ソンナコトヨリナゼ死ナナイ! 我ラノ攻撃ニ晒サレテ、ナゼ生キテイル!?」
 足下に散らばるタムランの死骸は全部で五体分だ。つまり、ラミリアは一斉に六体もの
タムランから攻撃されつつ、逆に撃破したということになる。六体もの魔物に囲まれれば
十分な回避も防御も出来るはずが無く、為す術もないままに嬲られてしまうものではない
か。実際、無数に付いた傷と血がそれを実証しているはずだ。それなのに、目の前の相手
はそれを気にも留めない風に殴りかかってきた。
 戦闘を専門とする騎士や暗殺者が相手ならまだしも、相手は殴りプリとはいえ専業の戦
士ではないのだ。その殴りプリに六対一という圧倒的な状況をひっくり返すことができる
など、全く以てこの魔物の知己の外だった。
「あの程度で勝ち誇ってたの? 私が殴りプリだから、この程度で勝てるって?」
「グッ……!」
 余裕の笑みを浮かべるラミリア。
「残念だったな…。生憎このワシは、強ェからよォ!」
 力任せにタムランの大刀を弾き、そのまま聖属性を付与されたモーニングスターを叩き
込んだ。タムランがよろめいた所で足下にもう一撃を叩き込み、転倒させる。
「はんまーぱぅわー!」
 謎のかけ声と共にモーニングスターが振り下ろされ、最後に生き残ったタムランも、他
の同胞と同じく砕け散った。砕け散ったことを確認して周囲を見渡すが、近くに魔物はい
ない。
 六対一という数の差を跳ね返した、ラミリアの完勝だった。
「"あぁ、幻竜王ドラムよ、永遠なれ"…ってね」
 謎の独白。
「だーいたい、殴りプリだからってヒールの修練欠かしてるワケじゃないっての。そう簡
単にゃ死なないわよ。要するに」
 自らにヒールをかけつつの独り言。
 六体もの魔物に囲まれてしまえばまともに防御も回避も出来ないが、ヒールは問題なく
施術できるのだ。流血や切り裂かれた衣服のせいで満身創痍にしか見えないが、傷自体は
ほとんどヒールで塞いであった。
 斬撃の雨に晒されながらもきっちりと反撃し、タムランを打ち倒していけたのはそうい
う理由だったのである。
「殴りプリなめんなっ!ってコトよっ!」
 獲物を高く掲げて高笑い。六体という数のタムランと戦闘になるのはそうそうあること
ではないので、それに無事打ち勝ってテンションが上がっているのだろう。
 通りがかった冒険者が、顔をしかめつつ遠ざかっていった。

 ごんっ。
 と、ラミリアの後頭部に何かがぶつかった。 
「……バナナ?」
 なんでバナナがこんなとこに。一瞬だけ疑問に思ったが、その理由は即座に思い当たっ
た。
 アユタヤが冒険者達に蹂躙され、その後しばらくしてから姿を見せるようになった魔物
がいるという。ラミリアが聞きかじった所によると、その魔物はバナナを投げつけて攻撃
してくるという。そして外見と裏腹に非常に強力な存在であるらしい。
 ゆっくりと首を回すと、ラミリアの視界には一本のバナナの木と、根本に立ちつくす少
女に似た姿が見えた。
「やばっ、もしかしてアレってレディタ…」
 その呟きが終わる前に、再び飛んでくるバナナの房。
「や、ちょっ」
 どかん。バナナ二発目が顔面に命中した。
「まっ…」
 どかん。バナナ三発目が命中。
「だから…」
 どかん。バナナ四発目。
「は、はな…」
 どかん。バナナ五発目。
「せばわか…」
 どかん。バナナ六発目。
「のげ、うげ、あべし、ひでぶ、うわらばっ」
 どかんどかんどかんどかんどかんどかんどかんどかんどかん……。
 しばらくの間、バナナの房が吐き出される音がアユタヤ古代遺跡に響き、
「………あなた、うるさい」
 少女が初めて口を開いた時、ラミリアの姿は山ほど積もったバナナの房に埋もれていた
のだった。


「りたーん…とぅ、らすとせーぶぽいんと…」


どっとはらい。